ウインザーチェアーがやって来た

コピー ~ IM000156

古い椅子を買い求めたことは幾度とあるが
知人の木工家が作った椅子を求めるのは初めてのこと。

サックバックのロッキングで 仕上げは拭き漆である。

若い頃 東京目白のギャラリーで彼の作品展を見せてもらったことがある。
どの椅子も量産でなく
一脚づつ作ることで生まれる何かを感じると同時に
達者な職人技を見せる仕事ぶりに 感心させられたのを思い出す。
作者は 村上富朗氏 である。
木工を通じての話を幾つかしたが、
その中で 旋盤で丸く削ったスピンドルをそのまま回転して仕上げず 
一本ずつ 切り出しナイフで 表面をなめるように削って仕上げることで
作りだせる仕上げ方を 目を丸くして話してくれたことを思い出す。

昨年 彼は急逝した。
生前木工仲間たちが集まって
一日数時間だけの椅子展を長野で開催した。
所有している方々の協力で 百脚以上の椅子が並んだ。
その会場は見事であった。
彼の人柄を示すように 全国から沢山の人が集まった。
訪れる人に ことごとく昔を懐かしむように
次々と握手をしながら 笑顔を作って話をしていた。

私にかけた一声は「井崎さん写真を撮っとこうよ!!」だった。
私は すかさず「何という言い方するんだ。写真を撮ろうよだろ!!」と返した。
彼は 沢山の来場者と話し切れぬ話をしていた。
結局 それが最後となってしまった。
とても残念に思えてならなかった。
62才という若さであった。
最後の力を振り絞って
彼のウインザーチェアーを制作する全工程を 記録ビデオに残してくれた。
その後 彼の遺作展が次々と開催され
木工仲間だけでなく 沢山の人を魅了した。

そんなある時 松本のギャラリーの方より
村上氏の椅子を譲ってもいいという話が起きた。
勿論大喜びで返事をした。
しばらくし 我が家にやって来た椅子は 
早々と私に馴染んでくれ 心地良く愛用している。
椅子がやって来た日に
さっそく彼の残してくれた
「村上富朗のサックバックチェアー」の記録ビデオを 
彼の椅子にたっぷりと腰をかけて 改めてゆっくりと観てみた。 

この椅子から 何かを作ってくれというような
村上氏の声を聞いたような気がしてならない。