街角で

 街角で

パリの街角にある広場の片隅で
腰を下ろしている青年がいました。 
30年も前の話です。
私はその青年の持っている
古く角に真鍮の金物が付けられている
珍しい宝物のような革のカバンが気になって、見ていました。
大切そうにいつも片手がカバンに添えられていました。
青年は広場の中心の人だかりを眺めていました。
私は大道芸人を スケッチしていました。
前日も同じ場所で スケッチをしていました。
そのときも青年は同じ場所で やはり広場を眺めていたのです。
私は奮起して古いカバンを見せて欲しいと声を掛けてみました。
そうしたら 日本語で返事がきて驚いてしまいました。
聞くところによると 大坂万博時代に会場でボランティアをしていたとのこと、
さっそく古い革カバンを見せてもらうと 
中には古そうなバンドネオンが入っていました。
皮カバンのイメージとは違い とても渋くシンプルな型のものでした。

街角で3


青年はバンドネオンを手にしてから
奏でる場所を探しているうちに 大同芸人に憧れたという。
しかし広場に来ても バンドネオンを出して音を出す勇気が出ずにいる。 
私は青年の話を聞いて手助けすることにしました。
おもむろに椅子を抱えて広場の中心に向かい、
パントマイムの芸人の横に並べました。

街角で2

青年はを意を決してバンドネオンを取り出し 
肩に掛けると タンゴの演奏を小さな音で奏で始めました。
隣でパントマイムを演じていた男が突然、大きな音で演奏しろと手招きをするや 
その演奏に合わせてひとり タンゴを踊りだしたのです。
後は説明するまでもなく 
何組ものカップルがタンゴの曲に合わせて踊りだしたのです。
そして広場の隅で腰を下ろしていた時の青年とは 別人のように 
バンドネオンの楽器の音色は 青年の言葉になって踊っていました。
わずか15分くらいの話ですが 青年の大きな出番を観せてもらいました。

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